情報量の増加がUIを変える
今日、CNET JapanのスタッフBlogに、こんなポストが上がっていました。
選択肢が多いことの落とし穴
途方にくれるほど多くの選択肢に囲まれると人は不安や非現実的な期待、自己非難、後悔といった感情によって精神的に不安定な状態に陥ると言われている。
この記事では、スーパーでの商品選択のような現実世界での事例が取り上げられていますが、オンラインの世界でも、情報過多(Information Overload)とそれが惹き起こす問題は昔から多くの研究者が着目しているイシューであり、自分が個人的に非常に興味を持っている問題でもあります。
これに関しては、現代を「無情報爆発時代」と称したリチャード・S・ワーマンの名著『それは「情報」ではない。』を最高の参考書としておすすめしたいのですが、いまAmazonでチェックしたら凄まじいプレミア価格が付いていますね…。でも、これはIAとしては絶対に読んでおくべき一冊だと思います。
話が若干逸れましたが、情報量の増加は、ユーザエクスペリエンスに関して様々な課題を突きつけてきます。
そのソリューション事例として非常に参考になるのが、GoogleのWebメールサービス「Gmail」です。リリース当時、Webメールのストレージ容量は多くて数百MBというのが普通でしたが、Gmailは容量1GBという破格の容量でスタートしました。当然、扱う情報量の違いが、インターフェース設計における画期的な進歩を生み出していました。
ここでは特に重要な2点のみを、簡単に振り返ってみたいと思います。
(1)メールの分類方法について
従来のメーラーは、Webメールでもクライアント型のアプリケーションでも、メールを「フォルダ」によって階層的に整理するのが普通でした。
しかしこの方法では、たとえば仕事のプロジェクトごとにフォルダを分けている場合に、プロジェクトAとBの両方に関係があるメールが来たらどちらのフォルダに入れればよいか悩むことになる、という難点があります。そこでどちらかに入れたとしても、メールの量が増えるほど、このような特殊な扱いをしたメールに関してどっちに入れたか覚えていないという事態が容易に起こりやすくなります。Gmailではこの「階層分類」を根本的に取り払い、1つのメールに複数のタグ(Gmail上では「ラベル」と呼ぶ)を付加できるようにすることで、「ファセット分類」を可能にしました。これはGmailの非常に大きな功績です。
(2)メールの検索方法について
クライアント型のアプリケーション(OutlookやBecky!など)では、メールに含まれる語句をキーワードとするメールの全文検索が可能でしたが、Webメールの世界では、Gmailが実装するまでは全文検索は実現されていませんでした。
これは技術的に無理だったのではなく、Webメールは容量が少ないので全文検索するまでもなく必要なメールが見つかるという暗黙の前提があった、と考えた方がよいでしょう。
しかし容量が増えれば増えるほど、全文検索無しには目的のメールにたどりつくのは困難になります。
Gmailにショックを受けた競合サービスの中には、すぐに容量だけ負けじと増やしたところもありましたが、従来のUIのままでデータ量だけ増えるとかえって使いづらくなることが明らかになるケースが見受けられました。
今では、多くのWebメールサービスで、全文検索機能が実装されるようになってきています。
いずれのソリューションも、「量の変化が質の変化をもたらす」(これはIPv6の登場に際して広まったフレーズですが)という分かりやすい実例となっています。そしてこれは、Gmailの開発者たちがその設計において「情報のボリューム」という変動要因を正しく評価したからこその結果なのだと思います。
作り手側のコントロールが及びにくいWeb2.0的なサービスやコンテンツのインターフェースを設計する上では、あらかじめ情報の増加率やライフサイクルなどを適切に想定し、取り扱う情報のボリュームをきちんと認識できるかどうかが、非常に大きなポイントになるのではないでしょうか。


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