『Intertwingled』著者ピーター・モービルから、日本のみなさんへのメッセージ

私が翻訳をつとめた書籍『Intertwingled —錯綜する世界/情報がすべてを変える』は、本日発売となります。これを記念して、著者のピーター・モービルから、日本のみなさんへのメッセージが届きましたので、翻訳してご紹介します。

時代や場所を越えて、さまざまな文化を探りながら、その多様性の大切さを学んできたピーターならではの、日本への理解と親しみを伝えてくれるメッセージです。

Intertwingled in Japan

I’ve been an information architect since 1994, but I don’t know a lot about Architecture. In the early days, the metaphor helped us to explain the value of structural design in the context of websites and wayfinding. We talked about buildings and blueprints but never studied the history of the built environment. The world of bits was so different. How much could we learn from bricks and mortar?

私は1994年以来、インフォメーションアーキテクトとしてやってきましたが、建築学のことはあまりよく知りません。情報アーキテクチャが生まれて間もない頃は、ウェブサイトや経路探索においても構造的デザインが価値をもたらすことを、そのメタファーがうまく説明してくれました。でも、建物や青写真について語っていた私たちが、建造環境(built environment)の歴史を勉強することはありませんでした。ビットの世界は、まるで別物だったからです。ブリック&モルタルの世界から、大したことは学べないだろうと思っていました。

Even so, I did try to study the discipline, but each time, I was repulsed. The books I read were horribly academic, and fixated on form with little time for function. Architecture seemed to be a shallow practice obsessed by ornament, so I moved on.

そう言いつつ、私は何度も建築学の体系を学ぼうとしたことがありますが、そのたびに反発を覚えました。私が読んだ本はおそろしく学術寄りで、形態にばかり固執し、機能についてはほとんど触れていなかったのです。建築学は、装飾ばかり気にしている、深みのない実践体系に見えたので、私はそれを置き去りにしました。

However, in time, the work of two great architects caught my attention and changed my mind. First, I became intrigued by Christopher Alexander and his search for “the timeless way of building.” Later, I was inspired by Frank Lloyd Wright and his quest for “organic simplicity.” Their shared passion for the synthesis of form and function encouraged me to revisit the discipline.

でもやがて、二人の偉大な建築家が残した成果に心を奪われ、私の見方が変わりました。最初に私を惹きつけたのは、クリストファー・アレグザンダーと、その「時を超えた建設の道」の探求です。 後には、フランク・ロイド・ライトと、「有機的なシンプルさ」を追求した彼の活動に刺激を受けました。形態と機能の統合を目指した二人に共通する情熱は、建築学にもう一度向き合おうという気力を、私に与えてくれたのです。

There is another thing these two men hold in common. While they mostly lived in the United States, both did some of their greatest work in Japan. Christopher Alexander built the Eishin Campus near Tokyo, and he tells the fascinating story of its construction in The Battle for the Life and Beauty of the Earth. Frank Lloyd Wright built the Imperial Hotel in central Tokyo, and like the controversial “floating foundations” which survived the Great Kantō earthquake, his love of Japan endured long after his visit. In his autobiography, Wright wrote of his experience of Japan: “At last I had found a country on earth where simplicity, as natural, is supreme.”

その二人には、もう一つ共通点があります。彼らは人生の大部分をアメリカで過ごしていますが、それぞれの代表的な活動の一部を、日本で行ないました。クリストファー・アレグザンダーは、かつて埼玉県にある盈進学園の建設を手がけ、『The Battle for the Life and Beauty of the Earth』という本で、その建設事業にまつわる魅力あふれるストーリーを語っています。フランク・ロイド・ライトは、東京都心の帝国ホテルの建築に携わり、物議を醸しながらも関東大震災の被害を免れて持ちこたえた「フローティング基礎構造」*1のように、帰国してからも日本への愛着を絶やしませんでした。

*1(訳者注)ライトは建物を複数のブロックに分割し、建築用語で「エキスパンションジョイント」と呼ばれる、異なる性状を持った構造体をつなぐ方式を用いて、耐震に配慮した構造設計を行なった。参考:Wikipedia: 帝国ホテル

In Intertwingled, I argue that we must make ourselves uncomfortable. In most companies today, the models and metrics are too simple, so we skate along the surface, repeating the same mistakes. We ignore the connectedness of organizational ecosystems and inevitably are blind-sided by “externalities.” To get better, we must dive deep into the discomfort of complexity, but we can’t stop there.

私は『Intertwingled』で、自分たちを厄介な目にあわせなくちゃいけないと語っています。今日の大抵の企業では、モデルも評価基準も単純すぎるので、私たちは同じミスを繰り返しながら、氷の上でスケートをしているようなものです。組織の生態系を支えている、つながりの力を見すごしているので、やむを得ず「外部性」の不意打ちを食らうことになります。その事態を改善するには、複雑さがもたらす厄介な部分に深く潜り込むしかないのですが、そこで終わりというわけにはいきません。

We must strive for an organic simplicity informed by context and culture. As our physical and digital ecosystems draw us into a greater awareness of interbeing, the boundary between architect and information architect blurs. The design of cross-channel services and experiences binds us together. We share the same goal: to make useful, sustainable, beautiful places that embody “the quality without a name.”

私たちに必要なのは、時と場合にふさわしく、文化的な情報を備えた、有機的なシンプルさを手に入れようと努めることです。モノの生態系とデジタルな生態系の両方によって、私たちがインタービーイング*2への意識を一段と高めていくと、建築家とインフォメーションアーキテクトの境界線はあいまいになります。クロスチャネルなサービスや体験のデザインが、私たちをひとつに結び付けます。私たちは同じ目標を共有している。それは、「無名の質」*3を形にする、有益で持続的な、美しい場所をつくることです。

*2(訳者注)『Intertwingled』5章で詳しく語られる、ベトナムの平和主義者ティク・ナット・ハンの思想。すべてのものはつながりの間に存在するという考え方を「inter-be(間-存在)」という言葉で示した。
*3(訳者注)クリストファー・アレグザンダーが『時を超えた建設の道』で提示した概念。あらゆるものの良し悪しを決める差異を生み出す根源的な質のことで、客観的かつ正確ではあるが、名づけることができないとされている。

Since these ideas and ideals are inspired by the people of Japan, I’m particularly excited to publish the Japanese edition of my book. I plan to visit Tokyo later this year and am already looking forward to learning from cross-cultural experiences and conversations. In the meantime, I hope you enjoy being Intertwingled.

こうした構想や理想像は、日本の人びとに啓発されて生まれたということもあって、私は自分の本が日本語版として出版されることに、とりわけ心躍らせています。今年は東京を訪れる計画があるので、そこで文化横断的な体験や対話による学びを得ることが、今から楽しみでなりません。それまでの間、ぜひみなさんにも、この本で「錯綜」する楽しみを味わってもらえますように。

January 30th, 2015
Peter Morville

『Intertwingled』では、「錯綜する世界」をめぐって、驚くほどに多彩な彼の思考と実践の軌跡が繰り広げられます。読者である私たちは、それらをまるで「追体験」するかのように読みながら、いつのまにか自分自身の経験に新たな光が照らされていることに気づきます。今まで見えなかった「つながり」の存在があらわになり、そこからさらに自分の経験を広げ、深めていけるという勇気を与えられるように感じることでしょう。

日本の読者のみなさんに、そのような本書の魅力が伝わればと願っています。

Amazon.co.jp:『Intertwingled —錯綜する世界/情報がすべてを変える』

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