エクアドルの書斎 ー あるいは、三年後の爆弾工房

Photo: Richard Stallman (left) Edward Snowden (center) Julian... on Twitpic
Richard Stallman (Left), Julian Assange and photo of Edward Snowden / Credit: Wikileaks

原文: The Ecuadorian Library or, The Blast Shack After Three Years
著者: ブルース・スターリング(Bruce Sterling
翻訳者: 浅野 紀予(Noriyo Asano
※文中の注釈はすべて翻訳者によるものです。

かつて平穏と幸福に満ちていた2010年、私はウィキリークスとそのケーブルゲート事件をネタにした原稿の依頼を受けた。そこで、自分の目から見た事態の成り行きについて、やや鬱っぽいエッセイを書いた — 恐れと苦悩に満ちた、重々しく古めかしいギリシャ悲劇のようなやつを。

その2010年のエッセイで私は、事態が良くなるどころかさらに悪化しつつあると憶測した。案の定、今や悪化の一途をたどっている。ケーブルゲートどころの騒ぎじゃない。

ケーブルゲートは、旧態依然とした半人前の米国国務省の膝小僧に蹴りを入れたにすぎなかった。でもそこへ、モスクワの空港からフラリと現れたのが、エドワード・スノーデンだ。お抱えのウィキリークスの護衛を引き連れて。国家安全保障局(NSA)のパンツをはぎ取ってから一ヶ月後のこと。

まあ結果的にそうなっただけだが、前回書いた『爆弾工房』のほぼ半分はNSAの根本的な問題にまつわる文章だった。2010年のそのエッセイを、テイクアウト用に少し引用しておこう。

ちょっと考えれば分かる通り、NSAのように巨大で中の見えない電子的スパイ団は、民主主義にとってとてつもない脅威である。実に危険きわまりない。NSAは明らかに、立憲上のあらゆる基本原則に背いている。NSAはまさに、透明性や説明責任、自由選挙、表現の自由、分権統治などに対するアンチテーゼなのだ——あるいは、NSAは巨大化し発達を遂げた一種のアンチ・ウィキリークスだと言ってもいい。思えば今までもずっとそうだった。私たちはその存在に慣れてしまった。まるで気にしちゃいない。

さあ読者諸君、そういうものに対して、昨今我々はそれなりの注意を払っているのだ。そう、昔はさておき、今はそういうこと。

だから、2010年に感じたあのどんよりした不満や疑念はもはや跡形もない。現在の状況は、正直なところ、スカッとさわやかだと言える。もうエドガー・アラン・ポーの『アッシャー家の惨劇』みたいな印象など感じられない。この光景は、ニコライ・ゴーゴリの小説そっくりそのままだ。

これはロシア人なら爆笑モノの喜劇的状況だろう。PRISM、XKeyScore、見せしめ裁判、監視活動、ジャーナリズムの残骸への脅威、どれもこれもひどいものだ。OK、もう何もかもわかったよ、ちゃんと気をつけるとしよう。どれ一つとして、事態が滑稽になっていくのを止めるものはない。

ロシア人を腹がよじれるほど大笑いさせるような地政学的情勢には、めったにお目にかかれないだろう。この状況は、間違いなくその一つだ。

スノーデンが思い通りに事を進めていたら、彼は今ごろ香港で宮保鶏丁*1をディナーにしながら、英語で渾身の論説記事を書いていたはずだ。彼をモスクワに向かわせたのは、陰鬱にも現代的な運命のいたずらだ。そこに到着した彼は、NSAのソルジェニーツィンと化した。アップテンポなデジタル版にバージョンアップした、良心の声に従う反体制派の亡命者。

しかしスノーデンが反体制派の亡命者だというのは、もう動かしがたい事実なんだ。アメリカ人はスノーデンみたいなキャラをどう受けとめればいいのかもわかっちゃいない — アメリカの要人も善良なる市民も、飲んだくれのように公衆の面前で醜態を晒し、自己矛盾に満ちた戯言をくどくどと口にしている。「まったく、奴はとんでもない嘘つきだ」とか「タチの悪い重罪人をこの国に返せ」とか、そんな言い草ばかり。一方では、南米の大統領たちのジェット機を叩き落とそうとしているくせに。

全体主義をネタにしたコメディのような、こういうぶざまな身の振り方は、ロシア文学を読んだことがあればおなじみの場面に違いない。オーウェルの『動物農場』に出てくるブタの方が、いま米国政府がひけらかしているものよりずっと口当たりがいい。彼らの情報の信憑性はゼロ以下だ。

かたやロシア人は、スノーデンのような亡命者のことは百も承知だ。ロシア人はいつでも、大勢のスノーデンを抱えてきた。山ほども。彼らは知っている、スノーデンがそういう高潔で良心的で原理主義的なキャラの一人であり、由々しき問題児だと。

現代のロシアはスパイが仕切っている。“シロヴィキ”*2の階級支配、プーチンの“管理された民主主義”。 選挙がほぼ無意味なものと化し、諜報機関がメディアを所有し、石油利権まで手に入れる時、市民社会は終盤を迎えることになる。で、それが彼らのためになっているというのだから、そりゃイカした話だ。

もし君がプロのスパイ階級の人間だったら、この手の良心に駆られたウィンストン・スミス*3的キャラほど気に障るものはなかなかない。プロレタリアート階級にもなんとか希望を見出せるかどうか、そんなことを物憂げにノートに書き綴るような人物。まったく面倒な奴らだ。

反体制ってのは、アンドレイ・サハロフみたいなものさ。あんなに世の役に立つ男が、謙虚で人当たりがよく賢い人物が、水爆というものを作ってしまった。地獄に直結しているこの不気味な装置は役に立つこともある、だから万事OK。そこで突然、彼は何と言い出したか?  気高き物理学は人類を傷つけるべきじゃない!だとさ。

なんと身勝手な、愚かな態度だろう? 実験用の白衣に身を包んだ博士殿、よく考えていただきたい。“人類を傷つけること”が目的じゃないとしたら、どんな理由であなたに公的資金が渡されたと言うのか? もし物理学が無害なら、あなたは給料なんてもらえやしない!

それこそ、まさに今NSAが味わっている現実だろう。それはスノーデンが彼らの足に履かせた紐靴だ。もし君も、数千人もの同輩と同じようにNSAの一員だとしたら、地球上に張り巡らされた電線とケーブルがひとつの大規模監視兵器であることを最初から知っていたはずだ。だって、それが本来の目的なんだから! 君はその葛藤に耐え切れず、インターネットユーザーは地に足の着いた市民だと泣き言を言い出す! そんなことが問題になっているんじゃない!

市民も権利も、エリートのための機密技術にはまるで関係ないんだ! 監視対象になるのは無頓着な愚か者たちで、彼らはコンピューター初心者ですらない! 米国の上院議員たちでさえ、NSAにとってはただのお飾りだ。PRISMやXKeyScoreについての議員の知識は、車の内燃機関についてダッシュボードのトロール人形が知っていることと大差ないんだから。

この通り、私はまだこういう皮肉たっぷりの辛辣なユーモアから足を洗ってはいない。でも、ちょっと視点を変えてみよう。そう、歳月を経て、2010年の煙はもう消え去った。サイファーパンクの爆弾工房は永遠に、木っ端みじんに砕け散った。

ここに来てはっきりしたのは、NSAが自らの造反者を生み出したことだ。生きて動いて完全に機能するNSAに接近するほど、こういう造反者たちはより巨大な、よりヤバい、より影響力の強い存在となる。

まず、ブラッドリー・マニングのことを考えよう。彼はNSAからははるかに隔たっている。退屈と気の迷いから、とんでもなく大量の政府文書をDVDに焼いて「レディー・ガガ」というラベルを付けた、軍の下っ端技術者だ。

当局は今週ついにブラッドリーに有罪判決を下すに至った。ほとんど関係なさそうな余罪を適当にかき集めて。しかし、すでにダメージは生じている。ブラッドリー自身が受けた傷もあるが、もっとも重傷を負ったのは当局の方だ。グアンタナモのブードゥー教の生け贄、あるいはオクラホマ州アルカイダ村出身の謎めいたハッカーテロの猛獣、そんなひどい扱いで彼を処遇したことで、彼らはブラッドリー・マニングを身長15メートルもの巨人にしてしまった。

少なくとも彼らは、ブラッドリーを殺しはしなかった。彼は見たところしっかり立っていて、独房生活の苦痛にも、壁を殴りつけるほど憤ってはいなかった。こうして彼は反戦主義の殉教者として投獄されることになるが、時代はめぐる。いつか、新たな存在が、ケーブルゲートに直接辱めを受けていない権力者の誰かが、彼を減刑できる日が来る。

将来の政権は、ブラッドリーの対テロ戦争が過去の話だと認めるようになれば、彼に恩赦を与えられる。対テロ戦争は、ウッドロー・ウィルソンの国際連盟と同じくらい最終的な失敗に終わった。今やマリから新疆まで、砂漠はどこもかしこもテロだらけだ。そして、何十億人もの心優しきブラッドリーたちは、その流血沙汰を止められなかった。どれだけリークしても。

だが、水圧破砕技術という現代の奇蹟のおかげで、Kストリート*4では石油産地での騒乱が以前ほどの一大事ではなくなった。いつか、ブラッドリー・マニングはモニカ・ルインスキーと同様に忘れられた存在となるだろう。そうなれば彼らは、スズメバチのようにブンブンとうるさい左寄りの平和活動家たちに屈して、ブラッドリーを手放すだろう。彼は危険じゃない。もはやブラッドリー・マニングは、また同じような結末を招くことはしない。彼は有力選手じゃない。良心に捕われた囚人なのだ。

ただしブラッドリー・マニングは、哀れなモニカ・ルインスキーとは違って、彼を賞賛し愛してくれる熱心な支持者には事欠かないだろう。この醜い大混乱に身を投じるまでは、彼にそんな支持者はいなかった。それが今はいる。たぶん、いて当然だろう。

そこで登場するのが、ジュリアン・アサンジだ。彼こそは銀髪の悪魔、エクアドル大使館のマイクロフト・ホームズ*5。ブラッドリー・マニングは、到底NSAの器じゃない。彼はUSBメモリを手にした、ただのリーク好きな職員だ。でも、ジュリアンは彼よりはるかにNSAに近い  — 百戦錬磨のサイファーパンクなのだから。

もし君がNSAによくいるギークの一人だとして、もっともな恐れを抱きつつジュリアンを見つめるとしたら、彼が自分と同族の一人だと認めないわけにはいかないだろう。数学に取り憑かれ、気障な語り口で、千里眼のような目力を持つ彼は、個人的な方言まで使ってみせる。その影響かNSAの連中まで、(どうでもいい)議会で演説したり、(どうでもよくない)悪玉ハッカー対策セキュリティ会議で熱弁を振るったりする時にはいつも、自己流のボキャブラリーをでっち上げている。

ジュリアンは、NSAの精神医学会のティモシー・リアリーだということがわかった。彼は他人の粉ジュースにこっそり混ぜものをしたこともある問題人物とされて久しい。ジュリアンを打ち負かし、彼の財源を断ってみても、何の効果もなかった。彼には今でも屋根とキーボードがある。それだけあれば十分らしい。

復讐に燃えながらもツイてない国務省の空しい陰謀を挫くには、包囲された大使館ほどうってつけな場所はない。自宅監禁も、ジュリアンがスウェーデンのフェミニストたちの前に突き出されることなく、人目を忍んで闘争を続けるために役立っている。否応無しの拘禁状態は彼を静まらせ、集中力を高めやすくした。熱心な政治的闘争を通じて、彼は成長し、成熟したのだ。

ジュリアン・アサンジはいまだに、イカれたデジタルイデオロギーを主張する偏屈な過激派だが、もうその狂気じみた考えをありのままに語る必要はない。彼の代わりに、当局がそれをやっているからだ。彼らの言う民主的プロセスがララランド*6のネオン看板同然だと認めないことには、PRISMやXKeyScoreを語り出すことはできない。

もっとびっくりなのは、このアサンジ様とその手下ハッカーの小隊によって、エドワード・スノーデンが米国に身柄を確保されるという事態がまんまと阻止されたこと。アサンジは自分用に使える抜け穴を見つけただけじゃなく、この若者のためにも一つ即席ででっち上げたのだ。

スノーデンは実質的にはNSAの一員で、NSAから見ればアウトソーシング契約を結んだ民間人の一人とも言える。しかしアサンジは、そこに重要な違いがあるかのように彼を解放した。

スパイや警察の犬を忌み嫌う世界中の無数の市民社会グループの中で、実質的に少しでもスノーデンを助けることができた団体がウィキリークスただ一つだったというのは、信じがたいことだ。この勇敢なサービスはジュリアン・アサンジから生まれた。いちいちカッとすることなく荷造りもできない男から。

私はアサンジを旅行ガイドに選んだことなどないが、ちょっとここらで旅を共にする仲間を眺めてみよう —  先ごろの「通信監視に対する人権の適用に関する国際的原則(International Principles on the Application of Human Rights to Communications Surveillance)」*7に粛々と賛同した面々だ。彼らの立派な義憤を記念し、ひとつのイデオロギー集団としてここにそのごく一部を拾い出そう。

賛同者一覧

7iber (Amman, Jordan), Access (International), Africa Platform for Social Protection – APSP (Africa), AGEIA Densi (Argentina), Agentura.ru (Russia), Aktion Freiheit statt Angst (Germany), All India Peoples Science Network (India), Alternatif Bilişim Derneği (Alternatif Bilişim) – Turkey (Turkey), Alternative Law Forum (India), Article 19 (International), ASL19 (Canada/Iran), Asociación Civil por la Igualdad y la Justicia – ACIJ (Argentina), Asociación de Internautas Spain (Spain), Asociación Paraguaya De Derecho Informático Y Tecnológico – APADIT (Paraguay), Asociación por los Derechos Civiles – ADC (Argentina), Aspiration (United States), Associação Brasileira de Centros de inclusão Digital – ABCID (Brasil), Associació Pangea Coordinadora Comunicació per a la Cooperació (Spain), Association for Progressive Communications – APC (International), Association for Technology and Internet – APTI (Romania), Association of Community Internet Center – APWKomitel (Indonesia), Australia Privacy Foundation – APF (Australia), Bahrain Center for Human Rights (Bahrain), Bangladesh NGOs Network for Radio and Communication – BNNRC (Bangladesh), Big Brother Watch (United Kingdom), Bits of Freedom (Netherlands), Bolo Bhi (Pakistan), Brasilian Institute for Consumer Defense – IDEC, (Brasil), British Columbia Civil Liberties Association – BCCLA (Canada) Bytes for All (Pakistan)…

まあ全部見てみるといい。イニシャルがAとBのものだけでも、こんなにある…  見ての通り、意識が高く政治的なつながりを持つ人々から成る地球規模の集団だ。これだけの国々から熱心なオンライン活動家たちが集まったこの騒々しい大群の中の誰かが、ちゃんとスノーデンのためになることをしたか? 何もしちゃいない。

ハワイから飛んできたスノーデンが寝不足状態で現れるまで、彼らは自分たちが愛するインターネットのハードウェアに何が起こっているのか、ちょっとでも想像していただろうか? 何ひとつ考えちゃいなかった。彼らは哀れな夢の世界に生きていた。そこは幻想の法的支配が電子フロンティアに及ぶ世界だ  —  フロンティアとは本来、法など存在しない場所なのに。

こうなると、市民解放運動の代表団は、もしいればの話だが、諜報活動を監視する米国上院議員団よりもバカげて見える  — 少なくとも議員たちは、NSAに資金提供し、機密法に基づいてお誂えの監視法廷を設置するために、気前よく金を出している。その馬鹿げたポチョムキン式メカニズムときたら —  まるで、プレデター無人偵察機のコックピットに、段ボールで作ったステアリングホイールを付けるに等しい。

ジュリアン・アサンジは、その名誉のために言っておくと、まるで荒々しい現実的政治の渦中にいるかのように、その場をうまく切り抜けるための処世術を身につけている。事実、そういう状況なのだから。まさにね。

ただし、アサンジはもう自分の立場をわきまえている。それについては筋金入りのベテランだ。しかも、当面は自分の身を危険に晒したままでいるつもりらしい。この事態の行方は、ほぼ見え透いているからだ。

NSAについての不都合な真実は、エクアドル大使館のテーブルの上に、毒を盛られたカラスのように硬直して横たわっている。しかしやがては、この地球上にまだ山ほどある不都合な真実の仲間入りを果たすだろう。

スノーデンは世間に向けて真実を語った  —  だが考えてみれば、それはソルジェニーツィンがしたことと同じだし、アル・ゴアでさえも時には真実を口にするのだ。真実は誰にでも役立つわけじゃない。それは、事態をややこしくする要因でしかない。現時点での地政学的状況は、持ち主の役に立たなかったとんでもない嘘八百で散らかり放題だ。

イラクの大量破壊兵器は存在などしていなかった。気候変動は確かに存在するし、ウォール街をいつ水没させてもおかしくない。グローバル財政が絶望的な状態にあることは明白だが、いつもどこかで生じている略奪行為と何ら変わりはない。無人偵察機は露骨な暗殺機械であり、機密扱いのままにはできない。誰だって手出しできる。

ああ、そういえば、Microsoft、Apple、Cisco、Googleといった面々は、みんな中国のHuaweiと血のつながった兄弟だぞ —  商業活動組織のふりをした諜報活動家たちなのだから。彼らは監視マーケッターだ。スパイとして君の情報を入手するために何かを無料で提供し、その情報をバリューチェーンに沿って手渡していく。パソコンにはユーザーが存在するが、ソーシャルメディアにいるのは家畜だ。

NSAでさえ、渦巻く雲のように膨らむ目下の偽装行為には屈辱を味わっている。それはそうと、なぜNSAだけが標的になるのか? 彼らは物静かな専門家集団で、十分な訓練と教育を受けていて、口だって固い。NSAの連中は隣りのオフィスの人間が何をしているかも知らないのだ。

それなのに、香港に逃亡した一人の民間人の契約業者は別として、誰がNSAを鱗で覆われたゴジラに仕立てたのか? 国家偵察局(NRO)は悪くないのか? NROは、世界中のどこでもあらゆるナンバープレートの文字を識別可能な、見た者すべてを石に変えるゴルゴーンの首にも似たその監視カメラのことで糾弾されたりはしない。

その他のあらゆる国家的サイバー戦争の当事者たちはどうなんだ? 地球上のあらゆるMicrosoftのセキュリティ脆弱性を狙って次々に系統的なスピアフィッシング*8を仕掛けている、中国のハッカー部隊みたいな奴らだ。Stuxnetというマルウェアを開発し、それを仕込んでイランの核燃料施設に火災を起こし、その後誰もその姿を見た者はいないという、獰猛きわまりないプログラマーたちはどうなんだ? 優しくて紳士的なNSAよりも、彼らの方が100倍恐ろしい。

だが、NSAはその実地経験をもとに、本当は何が起こっているのかをステークホルダーに率直に語ることで、自分たちの肩を持つことができるだろうか? まさか。とんでもない。スノーデン以前には、彼らの口はガムテープで塞がれていた。スノーデン以降は、ガムテープに加えて、手錠と電気仕掛けの足枷もはめられるだろう。

というわけで、真実はもうそこにある。でも、誰もその嘘っぱちをきれいさっぱり片付けようとはしない。誰が見てもわかるように、壮大なスケールで進行中の組織的詐欺行為からきっぱり手を引く方法はないのだ。そんな誠実さを義務づけることが可能な仕組みなど存在しない。オスマン帝国で一夫多妻制を改革するようなものだし。

たとえプロレタリアート諸君が一致団結してTwitterで騒ぎ立てたとしても、ネットワークが政府にならないとわかってしまえば、アラブの春がやってきた後で、残念な軍事クーデターが起こるだけだ。

電子的な市民解放活動家たちさえ、自らに嘘をついている。彼らは今、怒りでピリピリしているが、それは彼らに何の相談もなかったことが主な理由だ — でも、もしNSAがPRISMを99セントのAndroidアプリとしてリリースしていたら、みんな飛びついただろう。彼らにとっては電子的であることが一番で、市民性なんてものは、それに大差を付けられた二番手に過ぎないのだから。

彼らはNSAの莫大な技術力を意のままに操れることに、すっかり興奮するだろう。1947年来の年代物の世界人権宣言があるというだけで、敬虔にもその技術的性能に手をつけずにおくことは考えられない。もしNSAがその詮索用スパイコードの山をオープンソースで公開したら、シリコンバレーの連中はたちまち飛びつくだろう。彼らはそこにキッズ向けのグラフィカルインターフェースをくっつけて、たちまちそのクラウド対応版まで開発してみせるだろう。

コンピューターはクリプトウェアとして、スパイウェアとして、コントロールウェアとして発明された。それこそが、アラン・チューリングの功績に他ならない。それはコンピューター技術が生まれた源であり、その光景の原罪、そして毒リンゴでもある。

そのボトルに栓をしたがる一定の勢力など、地球上には存在しない。みんなそのボトルからもう一口すすりたいだけ — そしてあわよくば、ボトルの上に自分個人の高級ラベルを貼りたいだけだ。ほら、世界中でワイワイやってる巨大なFacebookのプロフィールに君自身も貼り付けてる、素敵な顔写真みたいな奴さ。

デジタル化し、グローバル化した社会  —  資本と情報が動く場所、労働と人体は動かない場所。それは、こういう動向を示しているというわけだ。それを我々は今、目撃し体験しつつある。社会がおかしいのは、自分たちがおかしいせいだ。いまや我々は半分が実物、半分がデジタルな存在となっている。まるで、サメとつがいになったトラから生まれた、片時もじっとしていない幼獣たちみたいなもの。*9

マニング、アサンジ、スノーデンに対する全世界からの反応が、驚いたことに、彼らをなんとかして肉体的に抑圧することだったという事実を見れば、彼らがみな同種の劇物認定を受けているとわかるだろう。三人ともオンラインでの大物で、そのデジタルな影は巨大だ。だからどんな手を使ってでも、文字通り、合法的に、超法規的に、命に限りあるその肉体をひたすら押し込めるしかないということ。

それはバーチャル性と実在性とが争うレスリングの試合、デジタル性への身体性の侵入だ。独房の中で裸で震えているブラッドリー、ずらりと本を並べた大使館の個室で真面目にタイピングしているジュリアン、丸一ヶ月も続いた暗黒のグローバル化による時差ボケ症状に襲われつつどこかの空港で座席の後ろから荷物を取り出すエド、まさに彼らそのものだ。

しかも、そのこじんまりとした、拘束された、ある意味では一つに結ばれた空間は、モラル的に優位な位置にある。そこがまさに現在地であり、昨今の状況を象徴する場所なのだ。

そのことは、先日公開されたリチャード・ストールマンの特ダネ写真を見ればわかる  —  彼はフリーソフトウェアの世界の聖フランチェスコ、鳥たちに説教し裸足で地上を放浪する生粋の変人にもたとえられる人物だ。そこに肩を並べているのは、無精髭を生やし、雄々しくワークシャツを着こなしたアサンジ。二人は一緒に、エドワード・スノーデンの小さな宣伝写真を掲げている。

彼らは、正義が報われることへの期待に満ちた至福の表情を見せている。星印付きのベレー帽をかぶったチェ・ゲバラも、この二人ほど自信満々じゃなかった。まさに、自己陶酔状態だ。

さあいいかい、君がもし角の売店までタバコを一箱買いに行かせるとしたら、この三人は誰もあてにできないぞ。ストールマンはタバコの苗を植えた小さな鉢をいくつも持ち帰り、自分のタバコは自分で栽培しろと言うだろう。アサンジはタバコを買ってくるが、何か実行不可能なコードを書きながら自分で全部吸ってしまうだろう。そしてエドは自分に火を放ち、タバコはどんな犠牲を払ってでも撲滅すべき恐ろしい発ガン性の邪悪なものだということを、罪なき全人類に向けて証明してみせるだろう。

それでもこの三人が一堂に会している光景には、驚くほかない。彼らは偉大な人物たちであり、スーパーヒーローもののコミックの中から別世界の支援部隊がやって来るぞと約束しているかのような顔つきだ。見るからに、かつてないほどの力強さを感じさせる。全面的な救いのなさに苦しむ世界で、彼らは主導権を握ったのだ。

しかも、そういう奴らはもっと現われる。まだまだ、いくらでも。

ブルース・スターリング


*1 「ゴンバオジーディン」と読むこの料理は、鶏肉とピーナッツの四川風炒めのこと。中国料理店では定番メニューの一つ。
*2 ロシアの政治ジャーナリズム用語で、治安・国防関係省庁の職員とその出身者を指し、一般的に強い愛国心を持つ人々とされている。プーチンもシロヴィキの一人。
*3 全体主義国家が支配する近未来世界の恐怖を描いたジョージ・オーウェルの小説『1984年』の主人公。
*4 ワシントンDCにある大通りで、ロビイストやシンクタンク、圧力団体などが集中している一画のこと。
*5 シャーロック・ホームズの兄で、いくつかの官庁で会計検査の仕事をしている。表向きは下級役人だが、実際にはその卓越した頭脳で政府の政策全般を調整する重要な立場にある人物。
*6 ロサンゼルスの愛称は、有名な「シティ・オブ・エンジェル」を始めとしていくつかあるが、この「LaLaLand」もその一つ。
*7 電子フロンティア財団(EFF)が運営する公式サイト「Necessary and Proportionate」で最新版が公開されている。
*8 スピアフィッシング(spear phishing)とは、オンラインでのフィッシング詐欺のうち、特定の個人や団体を標的としたものを指す。
*9 トラとサメをつなげると「Tigershark(イタチザメ)」という単語になるが、これは米国のF-20という戦闘機の愛称でもある。F-20は輸出用に開発されながら、政治的事情でどこの国にも採用されずに終わったという経緯がある。