ユーザーエクスペリエンスデザイン成果物リスト(User Experience Deliverables)

著者: ピーター・モービル / Peter Morville (Semantic Studios)
翻訳: 浅野 紀予 / Noriyo Asano (MediaProbe Inc.)
原文: User Experience Deliverables (2009年1月27日)

更新履歴

  • 2009年2月4日: トレジャーマップPDF内のスペルミスを修正(× Scinario ○ Scenario)
  • 2010年9月15日: サーバ移転につきURLを変更

ユーザーエクスペリエンス(UX)デザインの世界に身を置くわれわれにとっては、いまや心浮き立つような時代となった。UXの価値はますます広く認められるようになり、次々に生まれる新たなテクノロジーやメディアを超えたトレンドは、UXデザインの実践面で飛躍的な進化を生み出す土壌を整えつつある。

私自身、新たなチャレンジの数々に見舞われてあやうく安全圏から押し流されそうになりながらも、インフォメーションアーキテクトとしてはそれらを大いに楽しんでいる。これまでに、ソーシャルソフトウェアやリッチユーザーインターフェースをデザインしたり、モバイル検索の未来についてのシナリオを描いてみたり、いろいろなチャネルやアプリケーションにまたがるようなUXを設計してきた。するとそのうち、VIPルームの“エラい人たち”に自分のアイデアをご理解いただこうと苦心する場面が次第に増えつつあることに気づいた。

そんなわけで、私は自分の役割をあらためて見つめ直し、成果物(deliverable)の数々を再定義し、さまざまな分野に及ぶ新たなコラボレーションのやり方を進んで取り入れるようにしているところなのだ。たとえば、発見指向デザインと検索の未来についての(執筆中の)新たな著書である『Search Patterns』の共同執筆者として、私はまんまとJeffery Callenderを巻き込むことに成功した。

Tear Down The Wall

私たちは二人とも、彩り豊かで説得力のあるストーリーやマップ、イラストなどで検索に活力を吹き込みたいと願っている。それが、成果物のあれこれについて見直そうとする理由でもあるのだ。

思考のためのツール

発見とコミュニケーション、そしてデザインについての自分の考え方に変化をもたらすきっかけとなった2冊の本がある。まず1冊めの『Made to Stick』は、ものごとをシンプルに考えるという課題を与えてくれた。この本があらわにするのは、われわれの思考方法を変えたり記憶を形成する上で、簡潔なフレーズや、意外性のある個人的なストーリーがとても大きな力を持つということだ:

格言(proverb)は、シンプルさを極めた至高の作品と言える。短くて簡潔なフレーズを思いつくだけなら朝飯前だ。その一方、深遠でありながら簡潔なフレーズというものは、おいそれと考え出せるものではないが、それだけにいつまでも説得力を失わない。
ギャップを埋める前に、まずそのギャップを開く必要がある。人間は何かと他人に事実を伝えたがる。だが、まずは相手がその事実を知る必要があるのかどうか認識すべきだ。
このような認識によるならば ー つまり、共感というものが一定のパターンというよりは特異なケースから生じると考えるなら、マザー・テレサが遺したこんな言葉が思い起こされるだろう: 「顔のない集団を前にしては、私は何もできない。一人一人が相手ならば、行動できる」(If I look at the mass, I will never act. If I look at the one, I will.)
かくして、ストーリーが持つ力には二面性が備わっていることになる。それは、シミュレーション(行動方法についての知識)とインスピレーション(行動を促す動機)の両方をもたらすのだ。

そして、2冊めの『The Back of the Napkin』は、私にヴィジュアル思考を促してくれた。この本は、アイデアを発見したり売り込むために、スケッチという作業がどう役立つかを示している:

ヴィジュアル思考とは、人間の目、あるいは“心の眼”でなければ見えないようなアイデアを発見し、それを迅速かつ直感的に発展させ、他人でも簡単に“つかめる”ようなやり方で共有できるように、人間の生まれながらの「見る力」を駆使する考え方のことだ。

これらの本はいずれもピカイチの傑作だと言えるが、そのシンプルな考え方は実際応用するとなるとびっくりするほど難しい。ものごとを易しくするのは難しいのだ。だが、自分たちのプロジェクトや書きかけの本を仕上げるには、これこそやりがいのある作業に違いないと考えた。そこでJeffと私は、Danが掲げた“ガレッジセールの法則”、すなわち「すべてをひっくるめて見れば、どんなものでも見え方が違ってくる」という見解に基づいて、UXに関する各種の成果物をまとめて一望したり、確認したり、想像したり、披露できるように、それらの収集と整理を始めたのである。

成果物リスト

ここに20種類のUX関連の成果物をリストアップし、それぞれに関連するリソースや事例へのリンクを用意した。もちろん、プロセスごとに作られるこれらの成果物がUXデザインのすべてを物語っているわけではない。いくつものゴールやメソッド、ドキュメントどうしの関係も考慮しなければならないのだ。とはいえ、デザイナーの多くにとっては、やはりこれらの成果物がいわば法定通貨のようなものだし、ひときわ注目に値すると言っていい。

  1. ストーリー(Story)。UXにまつわる優れたストーリーは、他のユーザにとって問題点(またはチャンス)を見つけるのに役立ったり、行動を起こすモチベーションを高めたり、その後も長らく記憶にとどまることがある。
    Stories
    Storytelling in Business
    The Secret Language of Leadership by Stephen Denning
    Articles by Dave Snowden
  2. 格言(Proverb)。ヒット要因となりそうな売り文句や、手ごたえのあるたとえ話、エクスペリエンス戦略などは、現状の方針を引き合いに出しつつあらゆるポイントをコンパクトにまとめるものだ。
    Proverbs
    Experience Strategies by Jesse James Garrett
    High Concept Pitches for Startups
    English Proverbs (Wikiquote)
  3. ペルソナ(Persona)。タイプ別のユーザの写真とプロフィール(そして各自の目標や振る舞い)を目にすると、どんなデザイナーでも“自分はユーザではないのだ”という事実を再認識できるし、それらはデザインや開発上のとても貴重な指針として役立つ。
    Personas
    Personas (Dey Alexander)
    Personas are NOT a Document by Jared Spool
    Personas (Wikipedia)
  4. シナリオ(Scenario)。ペルソナを各自の普段通りの状況に置いてみると、実際にユーザが生活する上で、そのシステムがどんな場面で機能するのかを考えることができる。
    Scenarios
    What is a Scenario?
    Scenarios by Shawn Henry
    Use Cases and User Scenarios (IxDA)
  5. コンテンツインベントリ(Content Inventory)。ドキュメントやオブジェクトの確認と説明は、効果的な構造化や体系化を行うために欠かせない作業だ。この成果物(スプレッドシートで作るのが普通だ)は、デザイナーが行うべきデューデリの印と言っていい。
    Content Inventories
    Doing a Content Inventory by Jeff Veen
    Why You Shouldn’t by Leisa Reichelt
    The Rolling Content Inventory by Lou Rosenfeld
  6. 解析データ(Analytics)。ユーザが行った操作や検索、ナビゲーションのデータの山を探ってみれば、いろいろなことが分かる。また私たちは、もっとも中心的なランドマークや入り口、ルート、行動パターンを明らかにしてグラフ化し、他の関係者にも伝えている。
    Web Analytics
    Web Analytics (Wikipedia)
    Web Analytics and IA by Hallie Wilfert
    Search Log Analysis (Dey Alexander)
  7. ユーザ調査(User Survey)。何種類ものオーディエンスにまたがる多数のユーザに同じ質問をしてみれば、現状の格差や共通するニーズが明らかになり、それらが顧客満足度にどう関わっているかが分かるだろう。
    User Surveys
    When to Use Which by Christian Rohrer
    American Customer Satisfaction Index
    Pew Internet & American Life
  8. コンセプトマップ(Concept Map)。コンセプトの領域では、優れたマップによってランドマークを確立し、関係性を明らかにし、正しい方向を示すことで、現在地を知ることや方針を決めることが楽になる。
    Concept Maps
    Back of the Napkin by Dan Roam
    What is Your Mental Model? (Indi Young)
    Flickr User Model by Bryce Glass
  9. システムマップ(System Map)。あるシステムの中にあるオブジェクトとそれらの関係を視覚的に表現すれば、デザイナーとユーザの双方にとってシステムの理解や情報の発見の助けとなる。“現状(as-is)”から“あるべき姿(to-be)”へとギアチェンジすることで、構造的なデザインの改善に役立つ青写真が手に入る。
    System Maps
    Map – Territory Relationship (Wikipedia)
    London Underground Maps (Ask Edward Tufte)
    Developing Taxonomy by Christian Ricci
  10. プロセスフロー(Process Flow)。ユーザはシステム内をどのように動き回っているのか? そのようなフローをどうすれば改善できるか? シンボルを用いてそのフローを図にしてみれば、ユーザが実際によく利用しているルートが明らかになり、選ばれるルートの利点が分かるはずだ。
    Process Flows
    User Flows (Google Images)
    Improving User Task Flows by Austin Govella
    Desire Path (Wikipedia)
  11. ワイヤーフレーム(Wireframe)。ウェブページや画面のスケッチを作れば、色やタイポグラフィや画像などの問題に時間と労力を割くより先に、サイト構造や情報の体系、ナビゲーション、インタラクションの方に着目することができる。
    Wireframes
    Where the Wireframes Are by Dan Brown
    Real Wireframes by Stephen Turbek
    Wireflow Trading Card (nForm)
  12. ストーリーボード(Storyboard)。説明付きで並べられた一連のスケッチは、時間の経過と共に生じるユーザとシステムとのやり取りを示すことで、ひとつのストーリーを物語り、そのイメージを描き出す。
    Storyboards
    Comics by Rebekah Sedaca
    Understanding Comics by Scott McCloud (Video)
    Swimlane Diagram (nForm)
  13. コンセプトデザイン(Concept Design)。インターフェースデザインや総合芸術は、そこから生まれる製品や作品の完成形を忠実に再現することで、感情的な反応を引き出したり、注目を集めたりする。
    Concept Designs
    Concept Designs (Flickr)
    Concept Design Tools by Victor Lombardi
    Found Futures (Stuart Candy)
  14. プロトタイプ(Prototype)ペーパープロトタイプからプレアルファ版のソフトやハードに至るまで幅があるが、実際に動作するモデルは、製品のルック&フィールを示すことで素早い改善やその製品への思い入れを強める。
    Prototypes
    Paper Prototyping by Shawn Medero
    Prototyping with XHTML by Anders Ramsay and Leah Buley
    WineM (Technology Sketch)
  15. レポート文書(Narrative Report)。物書きという行為は、何かを考えたり整理するのに役立つ偉大なツールだ。それに、詳細な分析データや正式な推奨事項を示すには、文書に勝るものはないと言ってもいい。レポート文書は、他の大部分の成果物を取り込む器として役立つ。
    Narrative Reports
    The Elements of Style by Strunk & White
    Strategy Report by Morville & Rosenfeld
    Business Brief (Adaptive Path)
  16. プレゼンテーション(Presentation)。ビジネス界の共通語として、スライドショー(およびビデオ)は、ストーリーやイメージを伝えるには大いに役立つ。ただしプレゼンというものは、相手の目の前で行い、ちゃんと見せ場を作り、箇条書きを心がけるようにしないと、死ぬほど退屈になることもあるのでご用心。なお、プレゼンテーションも他の大部分の成果物の器となる。
    Presentations
    The Cognitive Style of PowerPoint by Edward Tufte
    In Defense of PowerPoint by Don Norman
    IA Summit Presentations (SlideShare)
  17. 計画書(Plan)。プロジェクトプラン、ロードマップ、スケジュールなどの文書は、各担当者の役割と責任範囲を明らかにし、デザインや開発の作業を進めるためのガイドとなる。
    Plans
    Gantt Charts
    Project Management (Wikipedia)
    The Deadline by Tom DeMarco
  18. 仕様書(Specification)。システムの動作あるいは機能を記述した要件をまとめた文書は、デザインから開発への移行フェーズで必須のドキュメントとなることが多い。
    Specifications
    Usable Software Specifications by Brian Krause
    Painless Functional Specifications by Joel Spolsky
    Just a Fairy Tale? by Dan Willis
  19. スタイルガイド(Style Guide)。アイデンティティ、デザイン、ライティングなどの基準を定めたマニュアルは、それらの明示性や一貫性を向上させる。
    Style Guides
    Guidance on Style Guides by Chauncey Wilson
    Web Style Guide (University of Pennsylvania)
    Web Style Guide by Patrick Lynch and Sarah Horton
  20. デザインパターン(Design Pattern)。ありがちな問題に繰り返し適用できる解決策を示すパターンライブラリは、さまざまなベストプラクティスについて解説し、パターンの共有や再利用を奨励し、一貫性を向上させるものとなる。
    Design Patterns
    About Patterns by Jenifer Tidwell
    Yahoo! Design Pattern Library
    Implementing a Pattern Library

成果物のまとめ方

もちろん、こういうリストを作るのははじめの一歩でしかない。個々のプロジェクトごとに、もっともふさわしい組み合わせを考える努力が必要だ。われわれIAの成果物はとかくタクソノミーに縛られがちなので、成果物どうしの関係によるフォークソノミーを引き出すには、以下のポイントについてチェックしてみよう。

  • オーディエンス(Audience)。誰に向けて成果物を作る必要がある?
  • 内容(Content)。どんなメッセージを伝える?
  • コンテクスト(Context)。相手との対話はどんな状況で行う?
  • プロセス(Process)。いつどの段階でメッセージを伝える?
  • 問題(Problem)。その成果物を通してコミュニケーションするのは何のため?

そして、こういう問いかけはいくらでも続けられる。説明は簡潔にすべきか、念入りに噛み砕くべきか? 定量的データと定性的データ、どちらが必要か? 今回リストアップしたような成果物については、最後の最後まで整理と調整を続けることになるだろう。私たちは手始めにこのリストを作ったが、この先はみなさんにも協力してもらえそうだ。よかったら私たちのFlickrコレクションを見て、ぜひタグを付けてほしい。

トレジャーマップ(Treasure Map)〜宝の地図〜

ここまでちゃんと読んでくれた諸君には、お待ちかねのご褒美の時間といこう。こういう成果物については、関係者の間でも喧々諤々の状態である。で、そういう状況がまさに厄介となっている。森全体を見ることができなければ、どの木が一番いい木か判断するのは難しい。そのせいで、昔からの慣習に舞い戻ってしまうことがよくあるのだ。たった1つのストーリーが千金に値することに気づかず、山ほどワイヤーフレームを作ってしまったり…という具合に。大いに価値のある成果物でも、大抵はつい見過ごされているものがあるというわけだ。そこで、私たちはこんな宝の地図(英語版日本語版)を作って、壁に貼り出しておくことにした。みなさんもぜひやってみてはいかが?

User Experience Treasure Map

では、幸運を祈りつつ宝探しの旅に出よう! そして、まだ見ぬお宝が見つかったら、ぜひ一報を!

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